日宇新

 私はこの4月で透析10年目を迎える慢性腎不全患者です。と同時にHIV陽性の患者でもあります。
 
 平成13年4月に透析を始め、同年11月に主治医より勧められた腎移植登録の際に「任意ではあるが」という条件ではありましたが、その際、HIV検査を併せて勧められ行いました。(これは私の既住症にその時点においては完治していた感染型肝炎を透析以前の通院期間の検査で主治医もわかっていたため勧めたものと思います。)
 
 結果は、陽性でした。この時点で、透析を開始してから、半年以上経過しておりましたが、その当時においては透析患者でHIV陽性患者というケースは極めて稀であったようですが、その当時から現在にいたるまで通院している透析病院の院長の判断により、HIV陽性と分かって以降も引き続き維持透析を受け、現在に到っております。
 
 私が陽性と分かった9年前とは違い、現在においては私のようなHIV陽性の透析患者が増加しつつあるということと、それに伴う諸問題が発生しているということをお伝えしようと思い投稿致しました。

 平成20年12月まで都下に住んでおりましたが、その年の8月まで片道1時間半の通勤時間を要する会社に勤めておりました。透析病院は住まいと勤務先との中間地点にありましたが、週3回(各4時間の透析時間)就労後の午後6時より10時まで透析をし、帰宅は11時半でした。これは私にとりましては仕事と通院、および体調管理の上において極めて負担の大きいことでしたので、その年の春ごろに私のようなHIV陽性の透析患者を受け入れてくれる透析病院を住まいの近くに探すか、または住まいに近い会社に転職するかを考え、透析病院の院長を通じ、そのような透析病院があるか問い合わせをして頂きましたが、受入れを許可してもらえる病院は1つもありませんでした。
 
 その後も就労後の透析を続けながら仕事をしておりましたが、平成20年夏に通勤も難しい状態に陥り、8月に辞職し、現在、無職の状態に到っております。
 
 転院の申し出をした3年ほど前において、私のような患者の受入れをしてくれる透析病院は全くといっていいほどなく、現在においても同様な状態であります。
 
 この10年間の間に透析患者数はほぼ10万人近く増加をしています。また、透析に到る原疾患は糖尿病から透析に到る患者が増えているとも聞きます。
 
 10年前においては私のような感染症からHIV陽性となった透析患者は極めて稀なケースではありましたが、最近においては私のようなケースは稀ではなくなったようです。都内の透析病院の実数がどれほどあるかは分かりませんが、各駅ごとに1つや2つの透析病院を見受けられるほどに増えているにもかかわらず、HIV陽性の透析患者を受け入れてくれる市中の透析病院は都内では私が通院している病院以外には恐らくほとんどないのが実情です。(実際にそうした透析病院があるかは把握しておりませんが。)
 
 失業し、実家のある地方へ帰郷することも考えましたが、東京とは違い、日常においてさえ閉鎖的であり、また排他的である地方においては私のようなケースの患者を受け入れてくれる透析病院はなく、それも断念せざるを得ないのが現状です。
 
 個人的な私の事情を一部申し上げた次第ではありますが、先般、私と同様のケースの患者がご両親が高齢で介護を要するようになったため、東京を離れ帰郷をする必要が生じ、受入れ先病院を探されたことがあったそうです。出来る限りご実家からも近く利便な受け入れ病院を探すべく、多くの病院に問い合わせをし、つい先日、1つの病院からようやく受入れ可能の返事を貰えたそうです。
 
 これまで書きましたようにHIV陽性の透析患者が増加しつつある現状は分かりつつあるのに、HIV陽性に到った経緯はどうあれ、医療関係者の無理解や見識不足、また単に世間体という観点から、HIV陽性という理由だけでそうした透析患者の受け入れを拒否する透析病院がいまだに多い状態です。
 
 目下のところ、透析に到る以前にHIVの検査は特に病院では課せられていません。ほぼ30万人近くまで増えた透析患者に、HIV陽性の透析患者が増加していると考えても不思議はない状況でありながら、こうした患者の受け入れについてはいまだにタブー視され拒否されている実情を鑑みると、実際は既に対岸の火事ではなく、喫緊の対処と解決を要する課題であるにも関わらず、対応策やガイドラインも設けられて居らず、個々の病院の判断に委ねられています。
 
 また、医療行為においてC型肝炎の方がHIVよりも感染力が強いとの認識がある反面、肝炎の患者については受入れをしてもHIV陽性患者については受入れ拒否をする透析病院が多いのが現状です。
 
 受入れを拒否され、就労や行動範囲においても身動きできないのは、ある意味で差別されていると感じることが多々ありました。
 
 これは透析に限らないことであり、様々な合併症を伴う病気においても、今後、さらに増加が予想される問題の1つかと思います。緊急に状況を把握をし、解決されることが、患者および医療機関双方において必要不可欠なことと思います。
 
 透析病院で私が経験したこうした状況は医療機関における一例に過ぎませんが、他の疾患を持つ患者においても既に同様のケースがあるものだろうことは想像に難くなく、今後、さらに私のような患者は増えるでしょう。しかしながら、こうした偏見や無理解によって差別し、拒否する理由がないのが社会における真の平等であり、医療機関もその例外ではなく、必要不可欠な理念の1つであろうかと思います。
 
 個人情報保護の観点からも、全国にある医療機関における、この問題に対する対処や実態を知るのは私一人の力では極めて難しいことですが、対応を先延ばししていられる状況ではないのも事実です。
 
 新型インフルエンザが全国的に蔓延したこの半年、HIVの増加は認識されながらも、こうした医療機関での対処の遅れは表立っては問題視されないまま経過しています。どのようなケースであれ、全ての医療機関においてどの患者にとっても平等な対応を提供するには一定のガイドラインを設けることが早急に必要に思われます。
 
 不況の最中、障害があることで益々、社会から疎外されてしまいかねない状況であり、そうした問題を抱えたまま生きることは一患者ではどうにも回避できなくなるでしょう。こうした現状について、患者、医療機関、また自治体の方々からのご意見や情報を伺いたい次第です。
 

追記

 昨年の透析学会において、HIVの中心的治療を行っている都内病院の医師(恐らくHIVの専門医)によるHIV陽性の透析患者についての講演があったそうです。
 
 ただ、こうした講演によって新たな検討がなされている状況ではないようで、目下のところは、実際にそうした患者が各医療機関でいることが分かった時点で対応をするというのが現状であり、医療機関間、あるいは医師同士での情報交換や協議をする機会は少ないようです。

 点と点での情報交換もしくは問い合わせはあっても、医療機関全般、言い換えれば面としての広い情報交換はないといえます。
 
 多少、より具体的な事実として、個人的な背景を付け加えるならば、私は目下、腎不全の慢性期(透析以前の状態時)に通院していた病院での月1回の検査と診察を都内私大付属病院の血液内科で、またセカンドオピニオンとして某国立大学関連病院で数ヶ月に1回の診察を受けております。しかし昨年、入院の必要がある場合、医科学研究所付属病院には透析室がないため、都内某国立大学付属病院の腎内科の医師にその場合の入院は可能かを問い合わせてもらったところ、受け入れできないとの返答を貰いました。
  
 私の場合、担当の主治医よりも病院のソーシャルワーカーの方が患者の社会的な、また経済的な面という生活そのものに直結する問題にも関わることだという意識が強いと感じることが多かったです。