さとうしゅういち

 日本は今、「安物買いの銭失い」の悪循環に、陥っているのではないでしょうか?
 
 本来の意味は、安い粗悪品を買えば、結局はお金を無駄に使ったことになってしまう、ということです。そして、今の日本は、国全体として行なってしまったつけに苦しんでいるのではないでしょうか?
 
 第1は、消費者による安物買い。
 
 第2は、企業による労働力の安物買い。
 
 第3は、有権者としての安物買い。
 
 以上のつけが日本を襲っています。
 
 労働者としての自らの首を絞めた「安物買い」
 
 第1の「消費者としての安物買い」は、1990年代ころから起きたと思います。日本の物価は高すぎる、これからは生活者のための政治を、と叫ばれたのです。そして、中小企業や農民、医者などを叩く風潮がはびこったのです。とくにそれは橋本龍太郎政権の頃かまびすしかった。
 
 しかし、結局、これは、第2の労働力の安物買いにもつながっています。
 よく、インターネットなどで、派遣切りや雇止めに遭った人を「自己責任だ」、と叩いている特に自民党支持者の方々がおられます。そういう方々は、派遣・有期雇用労働者が作ったモノやサービスを買われたことはないのでしょうか?
 
 しかし、物価下落は賃金低落につながり、国民所得を引き下げ、消費を冷え込ませ、日本経済全体の足を引っ張ったのです。これらのことは、実は橋本政権当時、西部邁・元東大教授や、評論家の内橋克人さんは指摘していましたが、イデオロギーの左右を問わず、あまり注目されることはなかったのは残念でした。
 
 間違っていた経済モデル
 
 そもそも、目指すべき経済モデルが間違っていたのです。小渕恵三政権から小泉純一郎政権にかけては、今後、そうは伸びが期待できないアメリカへの輸出に頼ることを前提とした。
 
 それを前提に、派遣法の緩和を実施した。また、地方交付税をカットし、地域経済を冷え込ませました。それにより、多くの若い者が、地元で就職できなくなって、東京になだれ込み、非正規労働者となったのです。
 
 このようにして、小泉政権は企業が「労働者を使い捨てて儲ける」道を進むよう政策的に誘導した、といえます。また、安易な労働者使い捨てが、技術の伝承・進化を阻んでいるのではないでしょうか?
 
 「小さすぎる政府」で貧困拡大
 
 第3の有権者としての「安物買い」は、「小さすぎる政府」を選挙で選んできたことです。とくに中曽根政権以降、小さな政府という「安物買い」を志向しました。そのつけが今、回ってきました。
 
 一部の官僚らが、天下りでいくつもの法人やファミリー企業を渡り歩いることなどに対して、国民がムカつくのは当然です。だが、いくら官僚がムカつくからと言って、勢い余って政府活動一般まで否定してしまう風潮もなかったでしょうか?
 
 日本は、失業しただけで、就職活動に失敗しただけで、奈落の底に落ちる社会になってしまいました。教育費のGDP比も低いし、世界でも有数の貧困大国になってしまったのです。
 
 中間層以上も、子育てや介護にお金や労力を取られています。自分の子どもも就職できない状態です。そうなると家庭内も不穏になってきます。誰もが、不安で浮き足立つような社会になってしまったのです。これでは、安心して働き、消費することができません。
 
 「アジアの北欧」目指せ
 
 これらの悪循環を抜け出すにはどうすればよいか? 日本はこのままでは、「先進国の覇気のなさ」と、「途上国の経済的貧しさ」を継ぎ合わせたような最悪な国に転落しかねないのです。さりとて、1980年代末から1990年代頃に行なわれたいわゆるハコモノ行政は今後いかがなものか? たしかに、土木工事は、雇用対策としては即効性がある。ハコモノは過剰になると東京の大手企業にばかりお金が回り、地元には借金とメンテナンスなどのコストが残ってしまいます。これを、菅直人・副総理は「第1の道」と呼び、労働者使い捨ての小泉・竹中新自由主義路線を「第2の道」と呼んでいます。
 
 菅副総理は、2009年末に発表した「新成長戦略」の中で、「第3の道」を唱えています。
 
 「新成長戦略(基本方針)」について(総理官邸・PDFファイル)
  http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2009/1230sinseichousenryaku.pdf
 
 これは、環境や社会保障、子育て、観光などの分野で新しい需要を生み出すということです。おおむね方向性としては賛成ですが、あえてわたしは、日本は「アジアの北欧を目指す」と考えます。その心は、以下です。
 
 アジア向け観光・環境ビジネスに活路を
 
 第1に、国際経済的に英仏独の欧州大国に対する北欧の位置を、中国やインドなどに対して日本が占める、ということです。
 
 「アメリカへの輸出ばかり」に依存し、そのパイを他国と奪い合うような構造のままであれば、市場が先細りになります。このために、人を使い捨てて利益を得ようとせざるを得なくなります。そして、人を使い捨てにしていたら、国内消費は伸びない。そして外需が崩落したとき、日本経済も崩落します。案の定、2008年のリーマンショック以降、一挙にツケが噴出したのです。
 
 さらに、労働条件が悪いので、若い者は結婚どころではなくなり、人口は加速度的に減るわけです。出生率が低下するのは、先進国になれば当たり前なのですが、日本の場合、度が過ぎます。産みたくても産めない、結婚したくても出来ない、そういう構図を脱却するような産業政策の転換が必要です。
 
 地方にもよりますが、観光地として、観光と関連した地元産業(農業、製造業含め)の活性化を図るべきです。中国やインド相手の環境関連ビジネスを振興していく、という方向でしょう。
 
 わたしの友人の企業経営者は、「電力の地産地消」を夢にしています。遠方の原発や大型火力などの大型電源に依存していたら送電ロスも多く環境にも悪い。そこで、地域で環境にやさしい方法で電力を作る。
 
 そうすれば、地域経済も潤います。これは、民主党の支持団体でもある電力労組の利害に反する面もあるでしょう。しかし、それを気にしていたら国民の利益を損ないます。
 
 そのためには、自然エネルギーを固定価格で全量買い取る方式を、総選挙でのマニフェストどおり、実施すべきです。わたしの友人は、「地産地消のモデル」をエネルギー大量消費国になるであろう中国などに「グローバル」に広めたい、と語っていましたが、まったく賛成です。
 
 また、広島県知事の湯崎英彦さんは、「瀬戸内海の道一兆円構想」をマニフェストに掲げて当選しています。そして、1月26日、プロジェクトチームを発足させました。これは、瀬戸内海地方の観光資源を活かしてアジアなどから観光客を呼び込み、1兆円規模の産業を生み出そうというものです。
 
 広島県も典型的な「小泉路線」でした。藤田雄山・前知事の下で、大手企業製造業誘致ばかりに偏ってきました。しかし、新たに雇用された人は多くが派遣労働者で、今回の不況で、路頭に放り出された人も多かったのです。
 
 そういう意味では、「海の道プロジェクト・チーム」の成否は、国全体の方向転換のよい例になりうる、と思います。
 
 平成22年1月26日(火) 海の道プロジェクト・チーム設置を発表しました
 http://www.pref.hiroshima.lg.jp/page/1264475447842/index.html
 
 社会保障を「投資」とみなす発想へ
 
 第2に、社会保障の仕組みを、企業単位から個人単位に改めるということです。そして社会保障を「負担」とみなすのではなく「人への投資」とみなすことです。
 
 官僚・族議員が企業を守り、企業が世帯主を守る、というのが、標準的なセーフティネットのあり方でした。これを転換するわけです。もはや、これだけ非正規労働者も現実に増えてしまった中で、企業依存型のセーフティネットでは、そこからはみ出す人が続出してしまう。
 
 既に現政権はマニフェストどおり、「企業を応援する自民党政治」から、「家計を応援」する方向に舵を切っています。子ども手当、高校授業料無償化などはその代表例です。しかし、まだ不十分です。授業料だけが教育費ではなく、教科書代、参考書代、服装など、さまざまな費用がかかる。そういった部分も保障しないと、子どもの貧困是正にはつながらないと思います。
 
 また、子育て支援については、子ども手当「だけ」では不十分です。小泉純一郎総理が約束しながら実現しなかった保育所の待機児童解消に本腰を入れるべきです。
 さらに、介護でも、お年寄り本人へのサービスだけでなく今後は「介護する家族」への支援も必要になるでしょう。
 
 いまや、家族のために仕事をやめざるを得ない人が子育て世代の女性だけでなく、介護を抱えている男性にまで広がっているのです。そういうあり方では、経済全体が持続不可能になってしまいます。
 
 世界一住みやすい国ノルウェーに学ぼう!-JanJanニュース
 http://www.news.janjan.jp/world/0911/0911243539/1.php
 
 孫による祖母放置死事件 男性・若者も介護につぶされる-JanJanニュース
 http://www.news.janjan.jp/living/0903/0903099085/1.php
 
 従って、社会保障は負担ではなく「人への投資」とみなすべきなのです。
 
 また、失業時の保障も、先進国でもずば抜けて貧弱でした。2009年秋から「第2のセーフティネット」が始動しました。今後、利用者の声に耳を傾けながら、使い勝手を改善していくべきです。
 
 これらをまかなうには、「大きな政府」にならざるを得ない。当面は特別会計への切り込みで切り抜けることも必要ですし、政府紙幣の発行なども検討してよいと思う。しかし、恒久的には増税が必要です。ただし、増税=消費税と決め付けてしまうと、アレルギーが強く頓挫してしまいます。
 
 ここは、資産および資産からの所得への課税をまず検討すべきです。具体的には、アメリカを見習った資産所得も含めた総合課税です。ガソリン税の税率維持も当然で、「ガソリンが高くても介護も子育ても安心」な社会にすべきでしょう。
 
 鳩山総理は、施政方針演説で、ガンディーの言葉を引きながら、この世の悪として「労働なき富」を挙げておられました。
 
 第174回国会における鳩山内閣総理大臣施政方針演説(平成22年1月29日)
 http://www.kantei.go.jp/jp/hatoyama/statement/201001/29siseihousin.html
 
 「お母さんから毎月1500万円ももらっておいて」と、失笑したくなる人も多いでしょう。しかし、これはチャンスでもあります。
 
 ここは、鳩山さんに対して、失地挽回のために資産所得への総合課税や、一定金額を超える金融資産への課税、あるいは、国際連帯税のような金融取引への課税などを検討するよう、要求することです。
 
 「エライ人だけ」でつくる日本から「みんなでつくる」日本へ
 
 第3に「エライ人ばかり」で仕切ってきた政治、とくに今後は地方自治を「みんなでつくる」地方自治に変えていく、ということです。
 
 「エライ人だけでつくる」から「みんなでつくる」地方自治へ-JanJan
 http://www.janjannews.jp/archives/2409851.html
 
 緊急経済対策を実際に実施するのは地方自治体です。そこで、地域に役立つ使われ方をしなかったら、いくら国が良い政策を出しても元の木阿弥です。
 
 もちろん、よい取り組みをしている自治体もあります。しかし、一方で田中康夫さんに「痴呆痔恥」と表現されても仕方がない議員もおられることは残念です。各議会はきちんと、せっかくの予算を地元の経済が潤うような形で使えるよう、議論していただきたい。
 
 今までの地方議員、とくに自民系の方は、どうしても霞ヶ関から予算を取ってくることで、地域で権威を振るってきた方が多い。知恵を絞るということが苦手なのでしょう。そして、メンバーも「年配男性のエライ人」ばかりに偏っている。これでは、若い者や女性はたまったものではない。
 
 公共事業をするなといっているわけではなく、せっかくの「緊急経済対策」なのに、意思決定に関わる人が「年配男性のエライ人ばかり」に偏っているがために、県民・市民に役立つような事業へのいい知恵が出ない。そのために、東京の大手企業ばかりが儲かるような事業に使ってしまう。こうした実態が問題なのです。
 
 東京などの大都会近郊も誉められたものではない。特に男性のサラリーマンは職場と家が遠いこともあって、地方自治への関心が低い。それをいいことに、一部の組織やエライ人が暴走するケースも見られます。
 
 ノルウェーの地方自治は民主的といわれています。すぐにノルウェー並になるのは難しいかもしれない。だが、自民党が政権から転落したことで、従来型の議員の存在意義はなくなりました。そして、2011年には統一地方選挙があります。これを機会に、「痴呆痔恥」を本来あるべき「地方自治」にしていくべきです。
 
 「EUにみる雇用のセーフティ・ネット」竹信三恵子さん講演
 http://www.news.janjan.jp/government/0911/0911153187/1.php
 
 
 ◇記者の「ブログ」「ホームページ」など
  広島瀬戸内新聞ニュース
  http://hiroseto.exblog.jp/