赤堀郁男


 私は、寅さんファンの56歳男子会社員です。監督には申し訳ないですがもっぱらテレビやビデオでの鑑賞となっています。渥美清や山田洋次について書かれた本も(5対1位の割合で)読んでいますが、この本は、まず映画(作品)を通して、あなたは何を感じ取るか、何に感動するかと作品中心に1講義1本のペースで学生に見せ、評価と感想文を書かせるという内容です。
 
 「大学で寅さん映画を観てそれが授業だなんて」「寅さん映画を大学で教えるってどういうこと?」と若干疑問を持ちながら読み始めました。
 寅さん第一作、「家族」、「学校」、「武士の一分」と山田映画のアウトラインをおさらいした上で、5回目は山田監督自身の特別講座「映画を楽しむ」です。学生の代表7名に監督がてきぱきと質問を投げかけて持論を展開します。
 
 山田洋次の学生達への突っ込みが鋭くて興味深かった。寅さん第一作でさくらが兄に結婚の許可を求める場面での寅のワンカットに込められた気持ちと映画作りへのこだわり。小津安二郎「東京物語」の冒頭5分くらいを見せて、その中にどのようなことが詰め込まれていたかを学生にたたみかけるように質問していくことで、「ものをよく見なさいよ」「よく見て自分の言葉で語れるようになりなさい」「イメージを言葉ではっきりと分かるように相手に伝えることが大切ですよ」と説く。
 
 映画(小説、絵、音楽[表現者])を目指す学生に対して、「自分に正直に、自分が感動した、観たいと思うような映画(作品)を作ること」「いいものにはその人の考え方や思い、人格が現れるもの」と山田監督は答えている。
 
 そして、「楽しみには質がある」と。何事でも「おもしろい」と感じるには、ある程度の慣れと知識が必要。また「おもしろい」にもレベルがあります。簡単なことならすぐに慣れてしまい、おもしろさも薄れます。しかし、最初は取っつき難いがだんだんとおもしろさが分かってくる、そして、さらに分かってくると、改めて難しさを感じて、ついには「難しいからおもしろい」ということもあり得る。おもしろさには深さもあるよと、そんなふうに監督は言っているように思いました。
 
 本書の著者は、渥美清が亡くなった翌年の1997年から「男はつらいよ」を若い人の心に残したいと考え大学での映画講座を始め十数年。退任の前にぜひ一度、山田監督自身に特別講義をお願いできたらとの思いが通じて自身の講座に山田監督を招き、学生たちに直接山田洋次からのメッセージを伝えることがかなったわけです。
 
 「好きこそものの上手なれ」、という言葉がありますが、著者は山田洋次が好きなんですね。それはそれで読んでいて感じるし心地よい。ただ、私は寅さんが好きなのです。正直、寅さんの先が山田洋次であることまでにはたどり着かない。そしてそれは山田監督にとって、たぶん、そう悪くないほめ言葉だと思いますよ、私は。