村尾啓

 2009年には日蝕で一躍有名になったトカラ列島だが、鹿児島と奄美の間に位置するこれらの島々の、多様性と類似性を見事に映し出した貴重な写真集である。2万点もの写真から、約1600点を選びだして編まれたこの本は、サイズもB5(※)と大きく見やすい。何より、著作者の島々に対する情愛の念がひしひしと伝わってくる。実際にこの本を読んだ人がトカラへ行きたくなる。そんな本である。

 出掛けてみたくなった人には、一番初めに簡単な地図や、島々へ渡る場合の具体的な注意点が挙げてあるのも嬉しい。

 写真には写っているが、現在では無人島となった島もある。そのような島の貴重な写真も含めて、各島のアウトラインを述べた後、漁業や農業、醸造などの生業、食習慣、衣服、住居の変遷、様々な祝い事や葬送に関する事例、数多くの神々や信仰、土着の神と外来神の混在と各々の島での祭り方など、実にきめ細やかに比較・採取している。

 このような方法を採ることにより読者は理解がしやすい。また、廃仏毀釈の影響を被った仏像などの写真もあり、言葉だけでは捉えきれない実際の姿を目にすることができることも大変に興味深い。

 更に、神々が多いということの意味を掘り下げてある。シャーマニズムや呪術に関するものである。遠く日本を離れて海外の秘境へ足を運ばなくとも、これらの宗教の持つ自然に対する畏敬の念、生命観に触れることは宣伝文句のエコロジーなどという軽い観念より遥かに深く、また、自然に本来日本人の持つ深い生命観に照応するものであろう。

 また、これらの感覚が現在も息づく様々な行事の記述も見事だ。七島正月のユニークなことは、特筆に値するし、初穂儀礼などは祭司としての天皇制を考える上でも貴重な事例であろう。森の仮面神・ボゼのインパクトには強烈なものがある。ボゼの作り方から、その性格、祭りのあらましまで、写真とキャプションを主とした説明で描かれているだけでなく、ボゼの行動に表れた生きる上で最も大切なことは、一抹のユーモアすら感じさせてとても興味深い。

 その他、祭礼と島の人々其々の役回り、島の天然温泉の様子、共同管理の有り様、平家の落人伝説から、海賊殺しと、その祟りを恐れて祀(まつ)る話まで、歴史や伝説の類も収録され、島の生活を浮き彫りにしている。

 何より、想像力を大いに刺激してくれる一冊である。

(※サイズについて当初「A4」としておりましたが正しくは「B5」サイズでした。お詫びして訂正いたします。編集部)