長島義明

 前回記事:阪神大震災の記憶(20) 女性の被災者
 http://www.janjannews.jp/archives/2686266.html

 阪神大震災が起きた日から被災地を歩き続け、2週間が過ぎた頃に神戸南京町を訪れた。そこで目にした一人の女性の姿から、初めて神戸の町にも人間らしい生活が戻って来た事を感じとり、とりあえず阪神大震災の事は終わるとしようと決めた。2月に旅をするベトナムのテト(春節祭)が近づいていた。阪神大震災を撮影した未現像のフィルムをラボに持ち込み、大まかに区分けし、メモを残した。
 
 1ヶ月ほどのベトナムの旅は阪神大震災の被災地を歩いた日々と違い、南の国特有の暑さが体を包むのんびりした毎日だった。ホーチーミン市から南へ160kmにあるメコンデルタ最大の町カントーではメコン川のそばにある小さいホテルに泊まり、ビールを飲んで過ごした。ホテルの窓から見える景色は美しく、朝日が昇る川面に何艘も小舟が行き交っていた。時々、バナナ畑のある対岸の島を訪れては子供たちの写真を撮った。
 ホーチーミン、ダナン、フエ、ハノイ、ナチャン、とベトナムの旅はあっと云う間の1ヶ月だった。
 
 帰国後、5月に控えた個展の準備の為にモノクロプリントに取りかかった。
 それは一昨年訪れたキューバをテーマにした写真だった。93年に訪れた当時のキューバはソ連崩壊により経済援助が打ち切られ、革命後もっとも苦しい時代を迎え、多くの人々が小舟や手作りの筏(いかだ)で海を渡りマイアミに亡命した時代であった。

 ハバナでカストロ議長に会い写真を撮り、亡命に失敗した女性にも会い、話を聞いた。そして、当時ではおそらく初めてであろう、キューバ政府の好意で20日間のキューバ国内各地の取材旅行をした。運転手付きの車に女性の通訳が同行し、ホテル、食事など全て無料であり、私の希望する撮影対象はほぼ完璧に撮らせてくれた。
 
 そのキューバ写真展会場は大阪現代美術センター内に2部屋を手配してあった。
 暗室でその写真展に展示する写真をプリントしている時、ふっ、と阪神大震災の写真を思い出した。「一日でも早く阪神大震災の写真を公開したほうが良いのではないか」。

 幸いキューバの写真展会場として2部屋を確保していた、その1部屋を阪神大震災の為に使用する事にした。キューバの写真は額入りで展示するが阪神大震災の写真は畳半分ほどの段ボール紙に貼付ける事にした。それは美術や芸術と異なり、災害記録だからである。写真には一枚づつ短い説明を書いて貼付けた。
 
 阪神大震災の映像はテレビや雑誌、新聞などでよく知られているが、大きく引き延ばされた写真は誰も見ていない。阪神大震災の初めての写真展であった。

 私はたびたびの経験から写真が持つ最大の力は写真展である事を知っている。
 大きくプリントされた写真はテレビや新聞などでは感じる事が出来ない感動を与える力がある。それはパソコンや大型テレビが普及した現在でも同じである。

 写真展会場には多くの方が見に来てくれた。その後各地から写真展の要請があり、全て無料で段ボールに貼付けた写真を貸し出した。どこの会場でも多くの人が見に来てくれた。一枚の写真の前で立ち尽くす人もいた。

 震災後8ヶ月が過ぎた9月半ば、ふたたび私は長田の町を訪れた。
 震災直後の火災で焼け落ちた町の残骸はすっかり片付けられ、菅原市場も仮設ではあるが店が開いており、近くにはプレハブの仮設住宅が建っていた。

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震災で完全に消滅した菅原市場はプレハブの仮設市場として復活していた。長田地区(1995年9月、撮影・長島義明、以下同じ)


 火災跡の多くはコンクリートの基礎がむき出しに残っていて、空しい空間が広がっていた。そんな中にプレハブ2階建ての小さい家が建っていた。家の横に祠(ほこら)も建っていた。家族の慰霊のために祀(まつ)ってあるのだろう。その家の前にぶら下がる多くの洗濯物は被災者の復活に向かう生活の息吹を感じさせた。でも、再建された家はまだ数少なく、新築中の槌音は聞こえるが、多くは空き地として放置されていた。

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震災で焼けた住宅の後には2階建てのプレハブ住宅が建てられていた。長田地区


 赤く焼けた被害地のひとつにピンクと白のコスモスの花が風に吹かれて揺れていた。その家では震災時に家族の誰かが亡くなったのだろう、花のそばに水の入ったペットボトルとコップ酒が供えてあった。
 この町が完全に復興するのは何年先になるのだろうか、一日も早く復興する事を願い長田の町を後にした。

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震災で焼けた住宅後にはコスモスの花が咲き、コップ酒が置かれていた。長田地区


 その後も私は気まぐれに思い出しては被災地を訪れ復興する姿を写真に撮った。
 新しく再建された町並みや人々の表情、高速道路、1月17日の記念行事、そして震災後に被災者を元気づけようと出来たジャズストリートの行事(これは10年間撮り続けた)。

 しかし、これらは今回JanJanに連載した目的とは異なる。
 始めからお伝えしたように今回の連載は一人の写真家が阪神大震災と云う戦後最大の災害の被災地を歩いた時の記憶です。決して報道目的に掲載したのではありません。少し自分勝手な感情が入っているのはご容赦下さい。
 
 まだ未発表の写真はいっぱいあるし、思い出も尽きませんが、8分で止めておくのが良いようです。始め、震災後15年と云う事で記事を連載しようと思った時には8回で終わるつもりでした。しかし、書いて行くうちに8回では終わらなくなり、「ご意見板」に投稿して下さった三国さまの言葉もあり、21回と云う長さになってしまいました。
 大阪に住み外国で写真を発表してきた私には東京の出版社と縁がなく、日本の雑誌に発表する機会もありません。これだけ長く連載記事として掲載していただいたJanJanには心から敬意を表します。
 また長い間、読んで下さった読者の皆様に感謝いたします。ありがとうございました。   

(完)


関連記事:<阪神大震災の記憶>

(21) 震災後の復興に向けて<最終回> 2010年02月22日
  http://www.janjannews.jp/archives/2710649.html

(20)女性の被災者 2010年02月20日
  http://www.janjannews.jp/archives/2686266.html

(19)被災者たち 2010年02月19日
  http://www.janjannews.jp/archives/2672258.html

(18)岡田家の震災 2010年02月18日
  http://www.janjannews.jp/archives/2646782.html

(17)神戸南京町 2010年02月17日
  http://www.janjannews.jp/archives/2629354.html

(16)死者と遺族の痛み 2010年02月16日
  http://www.janjannews.jp/archives/2618648.html

(15)生活水の問題 2010年02月13日
  http://www.janjannews.jp/archives/2601490.html

(14)段ボール紙に書かれた伝言板 2010年02月09日
  http://www.janjannews.jp/archives/2570986.html

(13)避難先にて 2010年02月08日
  http://www.janjannews.jp/archives/2565328.html

(12)機動隊員の活躍 2010年02月04日
  http://www.janjannews.jp/archives/2537171.html

(11)被災者への供養 2010年02月03日
  http://www.janjannews.jp/archives/2524286.html

(10)家族 2010年02月01日
  http://www.janjannews.jp/archives/2494275.html

 (9)密航して神戸に行く 2010年01月29日
  http://www.janjannews.jp/archives/2461653.html

 (8)消滅した長田の町 2010年01月27日
  http://www.janjannews.jp/archives/2437194.html

 (7)震災時のボランティア活動 2010年01月26日
  http://www.janjannews.jp/archives/2420124.html

 (6)神戸三宮の被害 2010年01月25日
  http://www.janjannews.jp/archives/2410128.html

 (5)鉄道の崩壊と被災者 2010年01月23日
  http://www.janjannews.jp/archives/2387956.html

 (4)被災地上空を飛ぶ-震災後3日目 2010年01月22日
  http://www.janjannews.jp/archives/2384152.html

 (3)人間の非力さを思う 2010年01月21日
  http://www.janjannews.jp/archives/2366784.html

 (2)安全神話の崩壊 2010年01月19日
  http://www.janjannews.jp/archives/2339378.html

 (1)高速道路を被災地に向かって歩いた 2010年01月18日
  http://www.janjannews.jp/archives/2324959.html