Esaman

 かなり以前の記事ですが、投稿します。
 
 2007年の12月2日、「生きている鳥をさばくところから、そしてそれを食べるところまでを(催し物として)やります」との案内を、友人のお店からもらったので、早速出かけました。
 
 名古屋市北区にあるお店で、本のたくさん置いてあるオーガニックフードのお店です。
 
 会場にはいると、かなりの人が集まっています。
 ゆうに30人以上はいたでしょうか。そんなに大きくはない店の内外には、かなりの人数の人達が集まっていました。
 一昔前の言葉でいうと「ヒッピー風」という表現にでもあるのでしょうか? そういった感じの人たちが多い中、OL風の人、親子連れ、少し年配の人など。いろいろな人たちが集まっています。
 
 そのお店の中庭には、カゴに入れられた鶏が何羽かいて、そのうちの一羽が庭に放されていて、土を掘り返して何か探していました。

 人も十分に集まってきたところで、まず最初に、この企画の主催者の飯尾さんが、庭に放たれていた鶏を抱えて、今回のイベントの説明をしてくれました。
 
飯尾:
 この鶏は、肉をとるためではなくて、卵を採るために飼われている種類のものです。
 少し歳がいって卵を産む効率が悪くなった鶏で「廃鶏」と呼ばれているものです。
 この鶏は、現在は卵をだいたい2日に一回生みます。
 廃鶏といっても年寄りというわけではありませんが、効率が悪いので安く取引されています。
 この鶏は、食べるものなどを管理して育てられている良い鶏で、一羽600円くらいです。
 この鳥は食肉用ではないし、ピークを過ぎて肉も多くありません。一羽から取れる肉もすくないので、今回は6(?)羽用意しました。

 鶏を殺すときは、よく磨いだ刃物で頚動脈を切ります。
 そうすると、鶏はあっという間に死んでしまいます。
 みなさんも、今日は、自分の手の中で命が消えてゆくことを実際に経験してみてください。
 そういったことを通じて、私達の食について考えると同時に、いのちの大切さに触れて考えてほしいと思います。
 
 そう説明したあと、飯尾さんは、形にもって鶏の両方の羽を固定して、頭を反らせて首の頚動脈を確かめます。
 そして、よく磨いだ刃物で頚動脈を切って、血を下に流します。
 
 血は、多くの人が想像するほどは出ません。
 
 切った瞬間の鳥は、思っているより反応がないものですが、絶命するときに、体が動きます。
 このときに、しっかりと両手で固定しておかないと、体が動いて血が飛んでしまいます。
 
 飯尾さんは、実際に鶏の頚動脈を切って殺したあと、庭に用意された布団を吊るす大きな金具のようなものに吊るしました。

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鶏の持ち方、刃物をいれる場所を説明する飯尾さん。熱心に見ている女性が最初にチャレンジした。この女性は、自分が生き物を殺せるとは思っていなかったそうです。(撮影・Esaman)


 それを見て、まずはじめに、飯尾さんの説明を間近で熱心に聴いていた女性がチャレンジしました。
 動物を殺すこと自体が初めての方とのことでした。
 ちょっと力が入っていますが、頚動脈を切り離された鶏のアタマは、すでに意識がないようでしたが、何度か羽ばたいてから痙攣を始めました。
 女性は、そこまで強い力で動くとは思っていなかったようで、うまく抑えることが出来ず、筆者のほうにも少し血が飛んできました。
 
 自分が首を切った鶏が金具に吊るされた後、女性は、しきりに「手際が悪くて苦痛を与えたかどうか」を気にしていましたが、筆者の目には、当人が気にするよりも、遥かに手際よく出来ていたのではないかと思いました。
 この女性の話によると、まさが自分に動物が殺せるとは思っていなかったそうです。
 
 このあと、他の参加者の人たちが順番に、それぞれの鶏の頚動脈を切ってゆきます。
 鶏によって、非常におとなしいもの、暴れるものなどいろいろとありました。
 みなさん、鶏が絶命したあとに拍手をしたりして、真剣に取り掛かってゆきます。
 こういったことが、まったく初めての人が多く、始まる前には「ほとんうにできるか」と悩んでいる人も居たようですが、自分の手を切ってしまうとか、中途半端に切った鶏を取り逃がしてしまう、という失敗もなく、みなさんうまくやっていました。
 
 そして血抜きのために、布団を吊るす大きな金具に吊るしてゆきます。
 
 「血抜き」といっても、そんなに多くの血がでるわけでもないので、お店の庭の土で十分です。
 子供が、逆さに吊るされた鶏を不思議そうにながめていました。

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頚動脈を切って血を下に流しているところ。新聞紙についている血は三羽分のもの。実際にはそんなに出ない。


 すこし休息し、2時間ほどたって、血が程よく抜けたら、今度は解体作業に移ります。
 本当に大変な作業はここからです。
 
 まず、大きな鍋にお湯を沸かして、そこに鶏を2分ほどつけてから毛をむしります。
 周囲に水に濡れた鳥の毛独特のにおいが広がります。
 飼っていた鶏を殺す場合は、この作業がもっとも「効く」ところでしょう。
 慣れ親しんだ動物の場合、においがもっとも記憶に残る部分だと思います。
 
 ですが、今回の鶏には誰も親しんでいないので、みなさん「ヘンな匂いだ」と言いつつ、結構手際良く進めていきます。
 
 意外と簡単に羽毛が抜けることに驚く人、徐々に「裸」になってゆく姿を見て「見覚えがある」と喜ぶ人、においに絶えられずどこかへ行く人…反応はさまざまです。
 吊るされていたのと、死後硬直が起こっているので、なんだか「こむらがえり」にあったような姿勢になっている、ハダカのトリが出来上がって行きます。
 
 抜いた羽毛をごみ袋にいれていきます。
 「土地に埋めたら」という声もありましたが、髪の毛や羽の類は、非常に土になりにくいので、廃棄します。
 
 さて、みなさんのお手元の鳥がきれいに裸になったところで、解体作業に移ります。
 まずは、主催者の飯尾さんが、お手本に解体工程をみせてくれます。
 
 頭を切り落として、首の部分を切ります。
 ここが「ネック」などといって飲み屋などで出されることのある部分。
 
 その次は手と足。
 それぞれの部位の根元にナイフを入れ、肉を切った後、ホネの接合部分をはずして行きます。
 
 ここが「手羽先」、ここが「手羽元」、これが、よくスーパーでも見かける「太もも」…飯尾さんの解説が続きます。
 みんな静かに注目する中、会場に、骨を断ち切る音が響きます。
 
 いよいよ、大きな部分をはずし終わって、胴体だけとなった部分の解体に取り掛かります。
 胴体の胸の部分の「ささみ」と「胸肉」をはずしたあと、次は内臓に取り掛かります。
 
 筆者も何度か鶏や、ほかの鳥を解体したことがありますが、さすが飯尾さんは農業高校出身というだけあって、ちゃんと教育を受けた専門家です。ここらあたりからの手並みの良さが違いました。
 
 肩甲骨のほうから切り込みを入れて、骨と肉を切り離し、根元のホネがつながっている部分(人間でいったら肩のあるはずの部分)を断ち切った後、肋骨のある胸板を、一気に胴体からひきはがします。
 シールか何かがはがれるような音がして、胸板の部分がきれいにはがれて、脂肪に包まれて、湯気の立つ内臓が露わとなります。
 
 「年の割には脂肪がおおいねー」といいつつ、黄色いプリンのような塊の脂肪を取り除き、内臓をより分けて行きます。
 心臓とレバー、この地域では「はらたま」という名前で呼ばれることの多い卵の黄身の部分、砂肝、普通は食べることはしない腸、などが取り出されてゆきます。
 砂肝を裂いて見せて、中に鶏が食べて溜め込んでいた砂利や砂のようなものを見せたときには、参加者の人達は「本当に砂肝だ」と歓声を上げていました。
 解体作業の最後のほう、内臓の入っている腹部の下の部分には「産道」があり、その中からは、薄皮に包まれたままの卵が入っていました。
 産道を取り出し、薄皮だけになった卵をとり出して、参加者に見せます。
 内臓のほかの部分を切断して中身を出さないように注意しながらよけて、解体作業は終了です。

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飯尾さんが解体をしてみせているところ。腹部の奥にある産道からまだ殻のできていない卵がでてきている。


 解体作業を見終わったあと、参加者がそれぞれに刃物を持って、自分の締めた鶏の解体作業に移ります。
 手羽先を切り落としたり、ももを切り落とすという作業も、普段はやったことがない人達にとっては、なかなか難しい作業だったようです。
 多くの人が、どこで骨が繋がっているいるのかわからなかったようで、はずす作業に苦労をしていました。
 また、肩甲骨をはずしてから内臓を出す作業は、やはり難しかったようで、自力でできる人はいませんでした。
 筆者が胸板をはずして内臓を出してあげると、何人かで一羽の鶏に集まって、これが砂肝だ、といいながら熱心に解体していました。
 内臓さえ出てしまえば、あとはそんなに固い部分はないので作業もしやすかったようです。特に産道の中に卵が入っているのには、皆さんいたく感動したようで、熱心に解体をしていました。ですが、やはり腸などを切ってしまう人がいて、中身が出てきて大変なことになっている人もいました。
 
 手足が大方はずされたところで、炭火を起こしてのヤキトリが始まりました。
 手羽先、砂肝、レバーなどが串に通されて焼かれます。
 
 初めて鶏を解体する人達には、すべてを解体するのは難しかったようで、この時にはお客の多くはヤキトリに移ってしまっていて、胴体だけになった鶏が何体も残されていていました。
 筆者はその解体作業に追われて、ヤキトリには、なかなかありつけませんでした。
 そのあと、産道とハラタマなどはスープにしてみんなで食べました。
 
 今回の解体作業に使った鶏は、廃鶏とはいえ、なかなか味もよく、みなさん満足していたようです。
 とくに「さすが本物は歯ごたえが違う」と感動していた人が多数いました。
 歯ごたえが良い(つまり硬い)のは、実は廃鶏だからなのですが、ブロイラーばかりを食べている人たちにとっても、廃鶏は、けっこうおいしいものだったということでしょうか。
 
 飯尾さんの話では「内臓は匂いがキツイので、できない人がでるかもしれない」との話でしたが、特にそういうわけでもなかったです。
 これは、よく管理された鶏だったからではないかと思います。
 
 最後まで解体出来ない人が多かったのは少し残念なことですが、ニワトリの形をしている肉を触るのがはじめてだった人が殆どだったことを考えると、十分に及第点なのだろうと思います。
 
 自分のイメージでは、オーガニックフードのお店のお客は、ベジタリアンも多く、動物の解体作業は苦手な人が多いのではないか、と思っていたのですが、思ったよりも積極的な人が多かったように思います。これは、かなり意外なことでした。
 
 また、これだけ観客の参加を引き出せていたのも、主催者の方が最初に自信を持って、鳥を殺して解体するところを、最後までみせてくれたことも、大きな一因だと思います。
 
 「食」について考えるならば、野菜や穀物にこだわって、少しでもその工程(農作業)を体験してみようという人達がいるのと同じように、食肉の生産工程にもこだわって、自分でその工程(解体作業)を体験しよう、という人たちが、もっと出てくる可能性は、意外とあるのかもしれないと思いました。
 

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