東京都立三鷹高校の校長在職中から、東京都教育委員会(以下「都教委」と略す)による〈挙手・採決禁止〉通知(2006年4月)の撤回などを求めて発言し、定年退職後の昨年6月に都教委の「言論統制」や非常勤教員不採用などに対して損害賠償訴訟を起こした土肥信雄氏――。その第5回口頭弁論が、東京地裁で開かれた(3月11日、午前10時~、東京地裁606号法廷)。
(1) 西原博史早稲田大学教授の陳述

開廷後、原告側木ノ切隆行弁護士が、今回「鑑定意見書」を提出した西原博史早稲田大学教授の、要旨次のような陳述を代読した。
「校長の職務権限に対する教育委員会の直接的な妨害行為が裁判において問題にされたことは過去においてもあまり例を見ない。そして、教育委員会と校長の間の権限関係を正確に位置づけるという困難な課題を本裁判においておこなうことは、今後に向けての先例的価値からいっても極めて重要である」
「憲法21条に保障された表現の自由と、それによって生じる自由な情報の流れは、民主的な学校運営を行う上で欠かすことのできない。また、公立高等学校の組織・運営は、生徒や親はもちろん、将来公立高等高校への進学を考える子どもやその親・親族を始め、将来において何らかの形で公立高等学校に関わる可能性のある者すべて、すなわち住民すべてが強い関心を有する公的なことがらでもある。こうした問題に関し、合理的な決定が下されるように透明な決定手続が確保されているとともに、責任ある体制構築、必要な情報が広く社会において共有されていることは極めて重要である」
「ところが、実際には都教委の報復的行為によって『東京都教育委員会の意に添わない社会的発言をすると定年退職時における非常勤教員採用において不合格になる』という萎縮的効果や表現の自由への抑圧が見られる」
「また、本件は原告土肥氏自身の〈表現の自由〉という憲法上の権利行使に関わる問題と並んで、〈校長に認められた独立の職務権限〉に対する侵害行為としても考えていく必要がある。校長の職務権限に対する侵害という意味では、東京都教育委員会の行為のいくつかは、教育基本法16条1項、学校教育法37条4項に反し、間接的には生徒の憲法26条に保障された教育を受ける権利を侵害しているとも言える。本件は、日本の憲法判例史の中でも大きな位置を占める重要な裁判である」
(注)
〔教育基本法16条1項〕
「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。」
〔学校教育法37条4項〕
「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する」
続いて、青野洋士裁判長、武智舞子裁判官、それに松本真裁判官らが、今後原告側から提出される意見書の期限や次回期日を確認し、15分ほどで閉廷となった。
尚、次回期日は次の通りである。
◎5月27日〔木〕午前10時~ 東京地裁606法廷

(2) 報告集会
その後、弁護士会館で報告会が開かれたが、そこでの中心は、西原博史早稲田大学教授の鑑定意見書での意見についてであった。
西原教授は、本裁判について鑑定意見書で次のように述べている。
「本件は、被告東京都教育委員会による重層的な違憲・違法の権力行使を問題にした事例である。公立高等学校の組織・運営に関わる問題は、責任ある教育体制の構築に向けた地域のすべての人々が関係する公共的な論点であり、教育委員会および教育庁を構成する一部の人たちの個別利害と個人的な思い入れに基づいて恣意的に作り上げていっていいものではない。にもかかわらず、本件における被告東京都教育委員会の実務は、あたかも、当事者による情報発信を封殺して情報隠蔽を図り、もって公的監視から免れた所で恣意的支配を貫徹しようとする姿勢を反映したものであるかのようにさえ見える」(P3「はじめに」)
そして、次の2点から、都教委の違憲・違法な権力行使を考える必要があると西原教授は説く。
〔1〕都教委が憲法21条(表現の自由)に直接反する形で土肥信雄氏の公的な表現を妨害した点
〔2〕都教委が、学校教育法37条4項(前記)に違反して、土肥信雄氏の校長としての職務権限を侵し、教育基本法16条1項に禁じられた「不当な支配」を行った点
〔1〕の「土肥信雄氏への表現の自由への侵害」は、職員会議における〈挙手・採決禁止〉通知に土肥氏が問題提起したあと、土肥氏への業績評価を「オールC」にしたり、教員の評価方法についての都教委の不当な干渉を土肥氏が発言したことも「守秘義務違反」として発言をやめさせようとしたりしたこと等が、それに当たる。
特筆すべきは、続く〔2〕である。
西原教授は、「憲法26条に保障された教育を受ける権利を生徒に対して保障していく上で原告校長に対して委ねられた独立の職務権限」(鑑定意見書P9)を認め、都教委の行為のいくつかは、教育基本法16条1項、学校教育法37条4項に反し、間接的には生徒の憲法26条に保障された教育を受ける権利を侵害していると説く。
ごく簡単に言えば、「校長」は〈教育を行う側面〉と、末端の教育行政機関として学校運営にあたるという〈教育行政をになう側面〉の2つの性格を有しており、教育を行う者としての校長は、教育行政担当の教育委員会から独立しており、「単に教育委員会の権限の延長線上に考えられ得るものではない」(同P12)ということだ。「教育に関わる校長の権限が一定の独立性を有しており、教育行政を行う教育委員会が恣意的に介入できるものではない」(同P12)というのが西原教授の主旨だ。
報告集会では、次回「意見書」を提出予定の浪本勝年立正大学教授からも話があった。浪本教授は「歌人の与謝野晶子が教育委員の公選制を提唱している」エピソードを紹介しながら、教育委員会と学校との関係について次のように自説を述べた。
「教育委員会は、教育行政機関です。片や、学校は教育機関であり、その教育機関たる学校に、都教委が誤って入り込んだことに、問題がある」
「教育委員会は、教育機関としての学校の権限や裁量などを尊重しなければいけない」
「まさに都教委のやっていることは、教育基本法で禁止されている〈不当な支配〉そのものです」

(3) 都教委を被告として起こされている近年の訴訟について
都教委を被告とする裁判は、土肥信雄氏以外にも多数起こされている。この事実だけからでも、いかに石原都政下、特異な考え方を持つ石原知事の腹心・ご学友(鳥海巖〔とりうみいわお〕1999~2007年まで東京都教育委員、石原都知事と大学同期)らが、強権的で偏頗(へんぱ)な教育行政を進めていたか、想像できるだろう。
裁判所別に見ると、原告397名の都立高校の教員らによる予防訴訟(国歌斉唱義務不存在確認等請求訴訟)や、04年処分取り消し請求訴訟(原告169名)、それに河原井さん・根津さん06年停職処分取り消し請求訴訟など、計5つの訴訟が現在、東京高裁で進められ、地裁では記者が把握するだけでも、8つの訴訟が都教委相手に提起されている。
今年(2010年)になって、高裁で2つ、最高裁で1つ、計3つの判決が出た。
ひとつ目の判決は、東京都立高校の元教職員ら13人の退職後の非常勤職員不採用に関する東京高裁判決で、稲田龍樹裁判長は「(再雇用するか決める)都の裁量権はかなりの程度に広い」と述べ、東京都に約2800万円の支払いを命じた1審判決を取り消し、請求を棄却する原告側逆転敗訴判決を言い渡した。これは、原告の元教職員ら13人が03、04年度の卒業式や記念式典で君が代斉唱時に起立せず、それを理由に減給などの懲戒処分を受け、05、06年の退職後に非常勤職員として再雇用を希望したが不合格となったケースだ。
ふたつ目は、卒業式の君が代斉唱で起立しなかったことを理由に定年後の再雇用を取り消されたのは違憲・違法として、東京都立高校の元教員10人が、都を相手に職員としての地位確認と損害賠償を求めた控訴審判決で、東京高裁・奥田隆文裁判長は「都教委の判断は不合理とは言えず裁量権を逸脱していない」と述べ、請求を棄却した1審判決を支持し、原告側の控訴を棄却した(2月23日)。
3つ目は、最高裁第3小法廷での判決(2月25日)で、都立七生(ななお)養護学校(当時、現・七生特別支援学校)の元校長・金崎満氏への懲戒処分(停職1ケ月)と教諭への降格処分の取り消しを求めた裁判の判決で、堀籠幸男裁判長は、都教委による1、2審を支持し、都教委の上告を退けた。最高裁判決を除く、ふたつの控訴審判決では、いずれの原告教職員も判決を不服としてすでに最高裁に上告している。
但し、これら都教委を被告とする複数の訴訟と土肥氏の提起した訴訟は、ある決定的な違いがある。それは「土肥氏を知っている人からすれば、これほど教育現場にいて欲しい人はいない」と吉峯弁護士が言う通り、土肥氏が教育者として極めて有能で、且つ在職期間中、一切の処分を土肥氏が受けていない点だ。
その土肥氏が、学校現場をよくしていくために発言したことに対して、都教委が適切でない方法で土肥氏を黙らせようとし、さらに人事権を使って報復したというのが、今回の裁判の基本的な構図でもある。
(4) 本裁判における意義
昨年1月17日付の文章で、土肥氏は自身の非常勤教員不採用について次のように述べている。
「私の不合格は、明らかに他の校長に対する見せしめである。土肥のように都教委を批判すれば、退職後の職はないぞ、と脅しているのである。今回の結果を見て、ますます校長は都教委に対する批判が出来なくなり、都教委の言いなりになる校長ばかりになるのは明らかである。そのことはまさにファシズムそのものであり、絶対に認めるわけにはいきません」
いささか我田引水めくが、記者が、上の土肥氏の言葉を読んで思い出すのは、「検察の裏金」を告発しようとする大阪高検の公安部長(当時)三井環氏に対して、「関西検察のドン」たる元大阪高検検事長が投げかけたヤクザ同様の言葉だ。
「なぁ三井君、組織を裏切ったやつはモリカズ(注・現在服役中の元特捜部検事)みたいになるんや。そのことはよう覚えときい」(下記、関連記事参照)
個人の正義感・信念に基づく発言に対して、強大な権限を持つ組織(都教委・検察庁)が、人事権・逮捕権を使って、組織に不都合な発言をする者に対して〈口封じ〉をする、という手法は、教育界でも法曹界でも珍しいことではないらしい。
そういう脅しや見せしめが横行する結果、どういうことになるかと言えば、過日、記者が取材を申し込んだ現職校長のケースがある。記者は「土肥前校長にゆかりの深い高校」の校長に取材申し込みをし、いったんは手順を踏んで取材に応じることになったのだが、その後「取材を受けない」旨の連絡があったというものだ。これが即ち、「何か発言することで、自分が脅しや見せしめの当事者になったら困る」「だから、発言は控えよう」という萎縮効果であろう。
「健全な教育行政」という点からも、土肥氏の裁判は意味を持つが、もっと広く、一個人が「組織からの圧力に屈しない」「言論の自由を守る」「正義を実現させる」という観点からも、この裁判のなりゆきは極めて重要だ。
組織からの不当な圧力に対して闘いを挑む――という点において、元大阪高検の三井環氏と、元三鷹高校校長土肥信雄氏とは、記者の中では同一線上に立っている。
※次回、三鷹高校卒業生が明かす、土肥前校長の〈肉体の秘密〉とは?
東京地裁で陳述するはずだった「私の思い」も全文掲載、――乞うご期待!
〈土肥信雄氏・インタヴュー〉
◎都教委の言論統制の実態(09年3月)
http://www.news.janjan.jp/culture/0903/0903209830/1.php
◎提訴にあたって(09年6月)
http://www.news.janjan.jp/living/0906/0906155123/1.php
〈土肥信雄氏・裁判関連記事〉
◎第1回口頭弁論(09年7月23日)
http://www.news.janjan.jp/living/0907/0907247662/1.php
◎第2回口頭弁論(09年9月10日)
http://www.news.janjan.jp/living/0909/0909120134/1.php
◎第3回口頭弁論(09年11月5日)
http://www.news.janjan.jp/living/0911/0911062762/1.php
◎第4回口頭弁論(10年1月14日)
http://www.janjannews.jp/archives/2305890.html
◎支援集会開かれる(10年2月6日)
http://www.janjannews.jp/archives/2578965.html
〈関連サイト〉
◎土肥元校長の裁判を支援する会
http://dohisaibansien.blogspot.com/
◎学校に言論の自由を求めて
http://blog.goo.ne.jp/ganbaredohi
〈参考〉
◎元大阪高検公安部長・三井環氏への脅し文句(7 ~後記~参照)
http://www.janjannews.jp/archives/2808250.html
(1) 西原博史早稲田大学教授の陳述
606法廷で、西原教授の陳述を代読した、木ノ切弁護士(撮影・三上英次 以下同じ)。
開廷後、原告側木ノ切隆行弁護士が、今回「鑑定意見書」を提出した西原博史早稲田大学教授の、要旨次のような陳述を代読した。
「校長の職務権限に対する教育委員会の直接的な妨害行為が裁判において問題にされたことは過去においてもあまり例を見ない。そして、教育委員会と校長の間の権限関係を正確に位置づけるという困難な課題を本裁判においておこなうことは、今後に向けての先例的価値からいっても極めて重要である」
「憲法21条に保障された表現の自由と、それによって生じる自由な情報の流れは、民主的な学校運営を行う上で欠かすことのできない。また、公立高等学校の組織・運営は、生徒や親はもちろん、将来公立高等高校への進学を考える子どもやその親・親族を始め、将来において何らかの形で公立高等学校に関わる可能性のある者すべて、すなわち住民すべてが強い関心を有する公的なことがらでもある。こうした問題に関し、合理的な決定が下されるように透明な決定手続が確保されているとともに、責任ある体制構築、必要な情報が広く社会において共有されていることは極めて重要である」
「ところが、実際には都教委の報復的行為によって『東京都教育委員会の意に添わない社会的発言をすると定年退職時における非常勤教員採用において不合格になる』という萎縮的効果や表現の自由への抑圧が見られる」
「また、本件は原告土肥氏自身の〈表現の自由〉という憲法上の権利行使に関わる問題と並んで、〈校長に認められた独立の職務権限〉に対する侵害行為としても考えていく必要がある。校長の職務権限に対する侵害という意味では、東京都教育委員会の行為のいくつかは、教育基本法16条1項、学校教育法37条4項に反し、間接的には生徒の憲法26条に保障された教育を受ける権利を侵害しているとも言える。本件は、日本の憲法判例史の中でも大きな位置を占める重要な裁判である」
(注)
〔教育基本法16条1項〕
「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。」
〔学校教育法37条4項〕
「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する」
続いて、青野洋士裁判長、武智舞子裁判官、それに松本真裁判官らが、今後原告側から提出される意見書の期限や次回期日を確認し、15分ほどで閉廷となった。
尚、次回期日は次の通りである。
◎5月27日〔木〕午前10時~ 東京地裁606法廷
2月の支援集会での、卒業生ら。書籍の販売(岩波ブックレット)でも「われらが土肥先生の本です」のひとことがついている。
(2) 報告集会
その後、弁護士会館で報告会が開かれたが、そこでの中心は、西原博史早稲田大学教授の鑑定意見書での意見についてであった。
西原教授は、本裁判について鑑定意見書で次のように述べている。
「本件は、被告東京都教育委員会による重層的な違憲・違法の権力行使を問題にした事例である。公立高等学校の組織・運営に関わる問題は、責任ある教育体制の構築に向けた地域のすべての人々が関係する公共的な論点であり、教育委員会および教育庁を構成する一部の人たちの個別利害と個人的な思い入れに基づいて恣意的に作り上げていっていいものではない。にもかかわらず、本件における被告東京都教育委員会の実務は、あたかも、当事者による情報発信を封殺して情報隠蔽を図り、もって公的監視から免れた所で恣意的支配を貫徹しようとする姿勢を反映したものであるかのようにさえ見える」(P3「はじめに」)
そして、次の2点から、都教委の違憲・違法な権力行使を考える必要があると西原教授は説く。
〔1〕都教委が憲法21条(表現の自由)に直接反する形で土肥信雄氏の公的な表現を妨害した点
〔2〕都教委が、学校教育法37条4項(前記)に違反して、土肥信雄氏の校長としての職務権限を侵し、教育基本法16条1項に禁じられた「不当な支配」を行った点
〔1〕の「土肥信雄氏への表現の自由への侵害」は、職員会議における〈挙手・採決禁止〉通知に土肥氏が問題提起したあと、土肥氏への業績評価を「オールC」にしたり、教員の評価方法についての都教委の不当な干渉を土肥氏が発言したことも「守秘義務違反」として発言をやめさせようとしたりしたこと等が、それに当たる。
特筆すべきは、続く〔2〕である。
西原教授は、「憲法26条に保障された教育を受ける権利を生徒に対して保障していく上で原告校長に対して委ねられた独立の職務権限」(鑑定意見書P9)を認め、都教委の行為のいくつかは、教育基本法16条1項、学校教育法37条4項に反し、間接的には生徒の憲法26条に保障された教育を受ける権利を侵害していると説く。
ごく簡単に言えば、「校長」は〈教育を行う側面〉と、末端の教育行政機関として学校運営にあたるという〈教育行政をになう側面〉の2つの性格を有しており、教育を行う者としての校長は、教育行政担当の教育委員会から独立しており、「単に教育委員会の権限の延長線上に考えられ得るものではない」(同P12)ということだ。「教育に関わる校長の権限が一定の独立性を有しており、教育行政を行う教育委員会が恣意的に介入できるものではない」(同P12)というのが西原教授の主旨だ。
報告集会では、次回「意見書」を提出予定の浪本勝年立正大学教授からも話があった。浪本教授は「歌人の与謝野晶子が教育委員の公選制を提唱している」エピソードを紹介しながら、教育委員会と学校との関係について次のように自説を述べた。
「教育委員会は、教育行政機関です。片や、学校は教育機関であり、その教育機関たる学校に、都教委が誤って入り込んだことに、問題がある」
「教育委員会は、教育機関としての学校の権限や裁量などを尊重しなければいけない」
「まさに都教委のやっていることは、教育基本法で禁止されている〈不当な支配〉そのものです」
07年8月に刊行された「岩波講座・憲法」(全6巻)。西原教授は、巻2で「保護の論理と自由の論理」と題する基本的人権に関する一文を寄せている。
(3) 都教委を被告として起こされている近年の訴訟について
都教委を被告とする裁判は、土肥信雄氏以外にも多数起こされている。この事実だけからでも、いかに石原都政下、特異な考え方を持つ石原知事の腹心・ご学友(鳥海巖〔とりうみいわお〕1999~2007年まで東京都教育委員、石原都知事と大学同期)らが、強権的で偏頗(へんぱ)な教育行政を進めていたか、想像できるだろう。
裁判所別に見ると、原告397名の都立高校の教員らによる予防訴訟(国歌斉唱義務不存在確認等請求訴訟)や、04年処分取り消し請求訴訟(原告169名)、それに河原井さん・根津さん06年停職処分取り消し請求訴訟など、計5つの訴訟が現在、東京高裁で進められ、地裁では記者が把握するだけでも、8つの訴訟が都教委相手に提起されている。
今年(2010年)になって、高裁で2つ、最高裁で1つ、計3つの判決が出た。
ひとつ目の判決は、東京都立高校の元教職員ら13人の退職後の非常勤職員不採用に関する東京高裁判決で、稲田龍樹裁判長は「(再雇用するか決める)都の裁量権はかなりの程度に広い」と述べ、東京都に約2800万円の支払いを命じた1審判決を取り消し、請求を棄却する原告側逆転敗訴判決を言い渡した。これは、原告の元教職員ら13人が03、04年度の卒業式や記念式典で君が代斉唱時に起立せず、それを理由に減給などの懲戒処分を受け、05、06年の退職後に非常勤職員として再雇用を希望したが不合格となったケースだ。
ふたつ目は、卒業式の君が代斉唱で起立しなかったことを理由に定年後の再雇用を取り消されたのは違憲・違法として、東京都立高校の元教員10人が、都を相手に職員としての地位確認と損害賠償を求めた控訴審判決で、東京高裁・奥田隆文裁判長は「都教委の判断は不合理とは言えず裁量権を逸脱していない」と述べ、請求を棄却した1審判決を支持し、原告側の控訴を棄却した(2月23日)。
3つ目は、最高裁第3小法廷での判決(2月25日)で、都立七生(ななお)養護学校(当時、現・七生特別支援学校)の元校長・金崎満氏への懲戒処分(停職1ケ月)と教諭への降格処分の取り消しを求めた裁判の判決で、堀籠幸男裁判長は、都教委による1、2審を支持し、都教委の上告を退けた。最高裁判決を除く、ふたつの控訴審判決では、いずれの原告教職員も判決を不服としてすでに最高裁に上告している。
但し、これら都教委を被告とする複数の訴訟と土肥氏の提起した訴訟は、ある決定的な違いがある。それは「土肥氏を知っている人からすれば、これほど教育現場にいて欲しい人はいない」と吉峯弁護士が言う通り、土肥氏が教育者として極めて有能で、且つ在職期間中、一切の処分を土肥氏が受けていない点だ。
その土肥氏が、学校現場をよくしていくために発言したことに対して、都教委が適切でない方法で土肥氏を黙らせようとし、さらに人事権を使って報復したというのが、今回の裁判の基本的な構図でもある。
(4) 本裁判における意義
昨年1月17日付の文章で、土肥氏は自身の非常勤教員不採用について次のように述べている。
「私の不合格は、明らかに他の校長に対する見せしめである。土肥のように都教委を批判すれば、退職後の職はないぞ、と脅しているのである。今回の結果を見て、ますます校長は都教委に対する批判が出来なくなり、都教委の言いなりになる校長ばかりになるのは明らかである。そのことはまさにファシズムそのものであり、絶対に認めるわけにはいきません」
いささか我田引水めくが、記者が、上の土肥氏の言葉を読んで思い出すのは、「検察の裏金」を告発しようとする大阪高検の公安部長(当時)三井環氏に対して、「関西検察のドン」たる元大阪高検検事長が投げかけたヤクザ同様の言葉だ。
「なぁ三井君、組織を裏切ったやつはモリカズ(注・現在服役中の元特捜部検事)みたいになるんや。そのことはよう覚えときい」(下記、関連記事参照)
個人の正義感・信念に基づく発言に対して、強大な権限を持つ組織(都教委・検察庁)が、人事権・逮捕権を使って、組織に不都合な発言をする者に対して〈口封じ〉をする、という手法は、教育界でも法曹界でも珍しいことではないらしい。
そういう脅しや見せしめが横行する結果、どういうことになるかと言えば、過日、記者が取材を申し込んだ現職校長のケースがある。記者は「土肥前校長にゆかりの深い高校」の校長に取材申し込みをし、いったんは手順を踏んで取材に応じることになったのだが、その後「取材を受けない」旨の連絡があったというものだ。これが即ち、「何か発言することで、自分が脅しや見せしめの当事者になったら困る」「だから、発言は控えよう」という萎縮効果であろう。
「健全な教育行政」という点からも、土肥氏の裁判は意味を持つが、もっと広く、一個人が「組織からの圧力に屈しない」「言論の自由を守る」「正義を実現させる」という観点からも、この裁判のなりゆきは極めて重要だ。
組織からの不当な圧力に対して闘いを挑む――という点において、元大阪高検の三井環氏と、元三鷹高校校長土肥信雄氏とは、記者の中では同一線上に立っている。
※次回、三鷹高校卒業生が明かす、土肥前校長の〈肉体の秘密〉とは?
東京地裁で陳述するはずだった「私の思い」も全文掲載、――乞うご期待!
〈土肥信雄氏・インタヴュー〉
◎都教委の言論統制の実態(09年3月)
http://www.news.janjan.jp/culture/0903/0903209830/1.php
◎提訴にあたって(09年6月)
http://www.news.janjan.jp/living/0906/0906155123/1.php
〈土肥信雄氏・裁判関連記事〉
◎第1回口頭弁論(09年7月23日)
http://www.news.janjan.jp/living/0907/0907247662/1.php
◎第2回口頭弁論(09年9月10日)
http://www.news.janjan.jp/living/0909/0909120134/1.php
◎第3回口頭弁論(09年11月5日)
http://www.news.janjan.jp/living/0911/0911062762/1.php
◎第4回口頭弁論(10年1月14日)
http://www.janjannews.jp/archives/2305890.html
◎支援集会開かれる(10年2月6日)
http://www.janjannews.jp/archives/2578965.html
〈関連サイト〉
◎土肥元校長の裁判を支援する会
http://dohisaibansien.blogspot.com/
◎学校に言論の自由を求めて
http://blog.goo.ne.jp/ganbaredohi
〈参考〉
◎元大阪高検公安部長・三井環氏への脅し文句(7 ~後記~参照)
http://www.janjannews.jp/archives/2808250.html
