松下潤治良

 陳情行政が、国と地方の上下関係を定着させてきたことは事実であり、一方で首長たちのマンパワーや公費が無駄に費やされてきたことも事実である。

 宮崎県の東国原知事は、民主党政権が打ち出した陳情の幹事長室一元取りまとめ方式に対しても、「陳情政治を無くすべきだ。大名行列のように全国から行く、これはムダ」(宮崎日日新聞 2009.11.6)と陳情政治そのものを否定している。見識ある意見だと思う。

 しかし、多くの自治体・首長は陳情行政を否定しない。現に東国原知事のお膝元の延岡市の首藤正治市長は2009年12月9日の市議会で「地方の声が国の政策に反映されるように、しっかりと訴えて参りたいと考えております」と、知事の意向を無視するような答弁を行なっており、また、2010年2月28日の宮崎県市長会では「陳情活動はムダだと分かっていてもやるべきだ」とその必要性を訴えている。

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延岡市役所 市HPより筆者キャプチャ


 延岡市長は政権交代までは、道路陳情などのために毎月1回の頻度で地元国会議員や国交省や九州地方整備局を訪ねていた。参照(延岡市HP、「市長の一日」)。市長は道路陳情の理由を(1)「高速道路が来ないから企業誘致ができない。高速道路がくれば企業誘致が可能になり、働く場が増える」とし、(2)「高速道路開通の先に輝かしい地域の将来がある(2007年6月2日の道路着工式)」と主張する。

 ちなみに、2008年3月6の市議会においては、「道路よりもガソリン値下げを望む庶民の声に耳を傾けるべきだ」との質疑に対して、「20年、30年後にこの地域でどれだけの方々が困った思いをするかということは非常に大きな問題。困る思いをする人が少なくて済むように高速道路を整備しなければならない。将来を見据えた議論をして頂きたい」と答弁している。「現在の生活困窮者よりも、20年後の生活困窮者を大切にしなければならない」と言うのは奇妙な理屈である。
 
 市長が方々で繰り返す上記(1)(2)の主張は正しいのだろうか。
 (1)の「高速道路がないから企業誘致が出来ない」というのは正しくない。現実に、08年6月にキヤノンから従業員一千人規模の工場立地の話があったが、高速道路要求・一辺倒の延岡市には対応できる用地の準備がなく、誘致は失敗に終わった。
 次に(2)「高速道路で地域はばら色になる」のか。約10年前、延岡・大分間の国道326号の改良で所要時間が大幅に短縮された結果、ストロー現象で多くの延岡市民が大分方面に流れ、購買力を示す小売吸引力指数は1.0台から0.8台まで下がってしまった。宮崎市・大分市・熊本市へと到る高速道路は、更なる衰退の始まりになりかねない。それでも、延岡市長は陳情に力を入れる。
 
 延岡市長が陳情活動に執着する「真」の理由は以下の3つだと思われる。
 1つ目は雇用対策である。ただし、それは市長が市民に説く「高速道路開通に伴う企業誘致・雇用」ではない。支持団体が望む「道路建設工事・雇用」である。
 2つ目は市長自身のメリットであり、これこそが陳情活動に励む真の理由だろう。まず陳情には自己責任が伴わない。マスコミは陳情振りを報道してくれるし、市民も支持・評価する。進展がなければ、陳情活動を続ければよいし、少しでも国の動きに進展があれば、「私の陳情活動の成果だ」とこじつけて市民にアッピールできる。
 
 この2月に民主党政権は全国の50区間で高速道路・無料化の実験を行うと発表した。宮崎県からは延岡南道路ともう一区間が選定された。延岡市長は次のようなコメントを発表した。
 「(私は)延岡南道路の無料化に向けて陳情活動を行ってきました。その努力が実り感慨無量。市民の皆様と喜び合いたい。(昨年暮れの合同陳情の際、この道路の無料化を前原大臣に頼んだ私の要求を聞き入れて下さった)前原大臣のご英断に感謝している」(地元紙「夕刊デイリー」2月2日の記事より。カッコ内は筆者補足)
 延岡南道路が選定されたのは地理的バランスから誰が考えても当然のことであり、市長の陳情活動とは関係ないし、前原大臣の「ご英断」でもない。ちなみに、宮崎県で選定されたもう一つの区間については、どの自治体も無料化・要求はしていない。
 
 市長が陳情に励む3つ目の理由はこれが快適な行政活動だからである。仕事はたった数十分の面会で終わる。公費で宿泊旅行を楽しむことが出来る。合同陳情の場合は、気心の知れた市会議員などの仲間関係者との楽しい親睦旅行になる。
 
 以上述べたような陳情活動の実情は、延岡市だけに限定されるものではないだろう。中には、首長の上京を必要とする大切な陳情もあるのだろうが、多くは陳情のための陳情活動になってはいないか。地方の長として重責を負う首長たちが、意味のない無駄な陳情活動に現(うつつ)を抜かす現状は決して健全な姿ではない。国と地方の上下関係を解消するために、また、交通・宿泊費などのムダを省くためにも、首長たちが一々国に陳情しなくても済むような制度作りを急ぐ必要がある。